日和ってる奴はだいたい友達 ⑱
海空、優弦、明澄が生まれた第5世界には神社仏閣はない
夏向と陵介は行ってみたいという皆を連れて買い物の前に瑠璃光院を訪れた、幻想的なところがいいというリクエストに答えたつもりだ
(感想は?)と聞こうとしたが夏向も陵介も黙ってかくりよ組とうつしよ組の後ろ姿をぼんやりと眺めた、何かに思いを巡らせる彼らだけが共有している時空を見ているような、そんな静けさが心地よかったのだ、しばらくどこにいるのでもないような、そんな感覚に浸った
ゆったりと流れる時間、床に静かに揺れる新緑を6人は黙って見つめている、上下がわからなくなるのを楽しむように微笑んでいた
口を開いたのは最澄
「ねぇ、空海…思い出したことがあるんだけど、公の場の真面目そうなやり取りとは別に俺は君と本音で話す時は違う領域で魂だけで話してたんだね、これ次元のチャンネルあわせて会話してる感じなのかな、2人で気兼ねなく話す方法だったのか」
何かがきっかけになったのか感覚が思い出される
「俺もおんなじこと考えてた、静かで澄みきっている領域、互いに笑ってるな、水鏡のような床を見た向こう側に最ちゃんがいる、別空間だなぁこれ、次元変えして会話してたのか、、時代背景だったり周りがうるさかったり?現実の最ちゃんとは本音で話せない部分もあったのかもな」
それを聞いていた晴明もそんな感覚が少し思い出されたようだ
「自然体で話すのが難しい環境だったとかね、まぁ、魂だけで別空間で話せば誰にも聞かれないからな、足引っ張る奴とかめんどうな奴もいるじゃん?俺なんか更に結界まで張ってたっぽい、よほど邪魔されたくなかったのかなあ」
(それもどうなんだろうな)と3人は笑いあう
明澄はそういう話しに興味があるようで
「先輩達こういうとこくると前世が甦って気持ちが違うとかあるんですか?」
最澄がアゴに指をあててふーんと考えている
「いやそんなに気持ち変わるとか、がっつり思い出すとかはなくて、いまもふんわりだよ、関連したことチラっとくらいだよね?」
空海と晴明も(そうな…)と頷いている
海空はがっかりだというリアクションだ
「なんかもっとがっつり変化欲しかったなー、不思議体験とか?」
空海がわりいなと苦笑いしながら片膝をついて床に手を伸ばす、水鏡とは少し違う温かみのある木鏡のなかで新緑が優しく揺れる
「ただこういう床な…、物質的でないものもすべて映しそうな感じ気持ちいいよ、目線を落とせばすぐにダイブできるような感覚、生きてた俺は何時間も座って宇宙と繋がっていた気がするんだよな」
後ろで聞いていた夏向が笑う
「当たってると思いますよ?俺達凡人が高野山奥の院やゆかりの地に行っても宇宙を感じるくらいだから、エアーカーテンあるのかなってくらい別の領域に入る境界線がわかる、空気違うし、陵介も言ってたよね」
「ああ、あの感じ、ここだけど、ここじゃねえって空気感はすげえよ、地上に宇宙つくった3人だよな」
へぇーっと感心している少年達を夏向が誘う
「落ち着いたらもっとまわろうね、いっぱいあるから神社仏閣」
海空は是非という嬉しそうな顔だ
「うん、いいな宇宙かー、やっぱその土地に行って感じるってクソ大事だよなー」
「だな、でもさ、こういうとこ5世界にもあってもよくね?、心洗われることも必要じゃん」
「僕も同感、神社仏閣あっていいよね、この場で感じてるようなこと大切だもん」
皆は話ながら阿弥陀如来の前に移動した
明澄は気になっていることがあってお賽銭を用意しながら聞いた
「僕、願いを叶えてくれるって聞いたことあるんですけど本当ですか?」
かくりよ組の先輩達が即答した
「「「くれねぇよ」」」
お賽銭を持った海空が(えー)とがっかりしている
「マジか、そんなきっぱり即答かよ」
空海は腕を組んで大きく首を縦に振った
「だって結局自分でやるんだぜ?自分に願え、それが一番早い」
最澄も大きく同意する
「間違いないよ、カミサマに頼んでも死にかけたりすんのこっちだからね」
晴明はごめんねって顔だ
「俺は生まれた時から才能あったしお願いはしたことない、するなら命令かな」
……
こいつ何言ってるんだろうという顔をしながら空海が助言する
「まあ、でも言葉は投げとけよ手は貸してくれるぞ、感覚でしかねえけど見えない力がなかったら俺は生きてるときあそこまでやれてねえからな」
最澄もそうだねという表情だ
「それは俺もそう思う天啓的なものは確かにある「こうする、とか、こうなる」って言っとくと、すべきことやヒントが目の前に現れるよね、気づけるかどうかは別としてだけど、気づけたら間違ってないって自信もって迷わず進める材料にはなるでしょ」
晴明がちょっと考え顔で聞いた
「陰陽師も吉凶を占い進む先を決めたりするだろ?占いなら良いとか悪いとか出るけどそれって正解、不正解わかるのか?」
最澄がなんか思い出さないかという顔で上を見る
「空海、唐に行ったの覚えてる?」
帰りに寄る店をスマホで調べていた空海が一瞬目線を上げた
「んあー、行ったのは覚えてるみたいだ」
「あの時代、船で外国なんてかなり危ないよね?嵐で沈んだらどうしようとか怖くなかった?」
スマホを操作しながら無意識に答えた
「いや?沈まないって知ってたから怖くねえよ、最ちゃんも知ってただろ?」
前世を拾う感覚でごく自然に答えが帰ってくる
「確かに俺も知ってたんだろうねその感覚はあるよ、だから船に乗った、空海はなんで無事に行けるって確信があったの?」
なんでだろう、という顔でスマホから顔を上げた
「んえ?…………えっとぉ止めらんなかったから?上手く言えねえんだけど」
晴明はあー、そっかという表情をしている
「2人はごく自然にメッセージ拾えてたんだね」
最澄が(たぶんね)と続ける
「空海が、俺が、乗った時点で航海は成功する、、不正解なら背中を押されないし止められる、ヒントはふんわりだけどgoとstopの違いは空気感かなりはっきりしてたんだと思うよ、ネットとかで自分達がやってたことみると、そうでなきゃ俺も空海ももっと早く死んでたかもねって思うし」
後ろでその話を聞いていた夏向と陵介は同じことを思い出していた、5世界で少年達の両親に会ったときのことだ、「彼らが行くと言うなら大丈夫」あの時はなぜそう言えるのか危険なところに送り出せるのか、大丈夫だと信じて笑って見送るのか、2人はよくわからなかった、両親達は彼らが子供の頃から最澄が言うようなgo、stopを自分達も巻き込まれながら見てきているのだろう、危険察知能力が高いとは少し違うのか?不思議な気持ちで少年達の成長をみていたのかもしれない
夏向は思い出しながらひとりごちた
「そういうことだったんだ、やっぱり受け継いでるとこあるんだな」
陵介が隣でやっぱりと反応した
「夏向が何考えてるかわかるぜ、たぶん一緒な、俺は特に「死なないだけでケガとかはするから」みたいなこと誰かのオヤジが言ってたの思い出したよ」
ふはっ、夏向は片腹押さえた
「それ、俺も聞いたときすごい気になったよ、死なないだけって何ってね?、みんなのお父さん達たぶん無事だけど痛い目にあってるってことだよね、それで一緒に行動する俺達に警告したんだ」
ただ先輩達の話を聞いていた少年達のリアクションは他人事だった
「先輩達スゲーな、そんな便利なスペックあんのかよ俺も欲しかったわ」
「な、肝心なとこ受け継がれてないじゃん」
「僕にもないよ、誰か一人でもあれば良かったよね」
備わっている能力に自覚はないようだった
海空が何かこんがらがったようで確認する
「ってことは、先輩達は願いは叶えてもらえないが、これみろ、あれやれ、ここに行け、それ違うぞ、みたいなことで何かに助けてもらえたってことでいいか?」
最澄が(まあ、そんな感じだよね)と首をかしげて空海と晴明を見ると2人も軽く頷く
空海が所々の記憶ではこうかな?という想像もしつつ話す
「短い寿命で効率的にやりたいことクリアしてくのに人間1人の微々たる力じゃムリだろ?他人の力と見えない力を最大限借りてたんだろな、ただこっちもけっこうなことやんねえと借りられなかったんじゃねえかなと思うけど…修行とか、、まあ、想像な」
それを聞いていた海空は(うーん)とやや困り顔でお賽銭を入れて手を合わせた
「今日はお邪魔しました、ありがとうございました」
隣で手をあわせようとした優弦がつっこむ
「あれ?海空それだけ?、なんか言わなくていいのか?」
「うんいい、むずい、手貸してくれそうな気がしねえ何していいかわかんねえし、先輩達は手を貸して貰えるだけの何かをしたんだろ?、たぶん、まず自分のレベル上げが必要みたいな気するしな、だからいい」
明澄もモヤっとした表情でしばらく手をあわせていたが
「そうだね、僕も他力本願で叶えてくれるっていうならいっぱいあるけど自分がってなると自信もって言えないよ」
先輩3人は海賊王になる!でも何でもでかいこと言うだけはタダなのにとあきれていた
〈〈〈 なんか言えよ、びびりすぎだろ 〉〉〉
(叶えてくれると言えば)と夏向が空海達に笑う
「俺、空海さん、最澄さん、晴明さん関係の地は願い叶えてくれそうな空気すごく感じるんだけどな、そういう意識あるんですか?」
空海が腕組みして(へぇ)と笑った
「え?俺らそうなの?そこ全然わかんねえわ、その地には残ってるんだろうけどな、夏向は俺らにお願い聞いてもらえたのかよ?」
それはとても素直で透明な満面の笑顔だった
「はい、いま目の前にいて助けてもらってます、さすがのオールスターですよ、ありがとうございます」
目一杯感謝を浮かべた笑顔を前に一瞬で3人は真っ赤になった
いつも堂々としてるくせに、なんだか耳まで真っ赤になって照れている3人を見て陵介は力ぬいてくれたかなとほっとしたような気分になった
生前、成し遂げていることから、その時代に普通に会っていればこの人達は天才だと思っただろう接し方も変えたはず、天才はずっと天才であることに疲れなかったんだろうか?成すべきことに一生懸命でそんなこと考えもしなかったかもしれない、人が見ているところだろうが見ていないところだろうが3人ともめちゃめちゃがんばる天才だったのだろう、だって天才というだけでは天は手を貸さない、想像を超えた先人達の努力の上に自分達は立っている、裏防衛省の皆は彼らに関わっているうち、ここにいる間は素直に照れ、笑い、怒り、喜び、口汚くも、遊び、美味を、心のどこかで自分を癒し力を抜いて楽しい時間も過ごして欲しいと思っている、1000年以上前から来てくれたのに、もてなすどころか守られている、足手まといにしかならない自分達が毎回現場について行っては疲れも倍増のはずだ、それでも「いつもありがとう」と言ってくれる天才達、同等とまではいくはずもないがせめて自分のことくらい何とかできるように成長したいところだ、偉人で天才だからって頼りっぱなしで当たり前なわけない
(よし、後ろじゃなくて隣で戦うんだ)、と陵介は手を合わせた
晴明がそれに気がつき
「陵介、なんか願うつもりか?いま1000円入れただろ、晴明神社には50円だったじゃん!許せねえ」
「そうなのか?怒っていいぞ晴明、東寺や神護寺の時はどうだったんだ?50円か?正直に言ってみろ陵介」
最澄が意地悪っぽく陵介の肩に手を回した
「1000円の願いって何?どんなの?聞かして?俺達に直に頼めばよくない?」
(みんなに頼んだら意味ねえんだよ)モゴモゴと別に何もとごまかす何も言えない陵介に夏向は少々、心配して
「陵介、いつも小銭入れてるとこしかみたことないよ?どうしたの?札の願いって重さが違うよね、1万円とかいくともう命に関わるっていうか」
いったいどんな基準なのか、その大袈裟さにまだ手を合わせてなかった優弦は早々に何も願わず済ませた
「何?命って、神社仏閣なんか深けえ」
「俺ら馴染みねえからわかんねえけどさ、でも料金表あったほうがはっきりしてて良くねえ?」
ダメでしょ、という顔で海空を横目に見ていた明澄が無邪気に聞いた
「で、陵介さん1000円で何言おうとしたんですか?」
〈 ああ、もうっクソっ、俺の決意が… 〉
もう台無しだと泣きそうな気持ちになりながら陵介は決意(言い訳)を焦りつつ考えた
「…明日のみんなの朝ごはん、エッグベネディクトを上手に作る宣言しようとした…かな」
「「「「「「「マジか、あれ美味いよなー!いまから楽しみだ」」」」」」」
さて、行くぞと皆上機嫌だ
食べ物に気をとられ?、それ以上突っ込みはなかったことに陵介はほっとした
〈 まあ、いいか…美味い朝メシ食って笑ってくれれば、それも 〉
とても小さなところからクリアしていく陵介だった