日和ってる奴はだいたい友達 20

日和ってる奴はだいたい友達 20

 

じゃんけんに負けてみんなの分のサンドイッチとコーヒーを買って後から来た優弦が部屋に入ろうとして躊躇した、天星の怒鳴り声が聞こえたからだ

「0か100しかねえのか?おめえらガキかコノヤロウ、一気に電池切れしやがってからに、特に夏向と陵介、一緒んなってへばってんじゃねえっつの」

ドアわきで面倒くさそうな空気を感じ取った優弦はそっとその場を離れ藤堂が働くエリアに向かった、藤堂が座る席横のキャビネットにテイクアウトトレーを置いた

藤堂が気づいて顔を上げた

「おはよ、他の奴らはどした?」

優弦はトレーを指した

「おはよ、俺だけカイザー寄ってサンドイッチとコーヒー買ってたから、藤堂さんの分もあるよ」

藤堂は(お、サンキュ)と言って立ち上がってサンドイッチとコーヒーをとってキャビネットをテーブル代わりにしコーヒーに少しミルクを入れた

「あ、もしかして他の奴ら天星に怒こられてた?」

「うん、怒鳴り声が聞こえたからこっちきた、迷惑かけたっぽいな、わりい、チラっと聞こえたんだけど夏向さんと陵介さんもぶっ倒れたのか?」

「そーそー」

そういいながらスマホの写真を見せた、詩音にお姫様抱っこされた陵介と雑に運ばれてる自分達が写っていた

「ふはっ、まさか全員でへばってるとはな」

 

昨日の午後、体力を測る目的もあって裏防衛省敷地内倉庫のバスケットコートで試合をすることになった、うつしよの少年達と夏向、陵介、天星、藤堂がバスケ経験者だったこと、夏向、陵介はインターハイウインターカップ優勝経験があることを聞いていた少年達は一緒にプレイしたいと頼んでおり早速その機会がやってきたのだった、そして、うつしよ組(夏向、陵介、海空、優弦、明澄 ) VS かくりよ組(空海、晴明、最澄、天星、藤堂)で行うこととなったのだが、うつしよ組はエネルギー枯渇により第4Q残り1分30秒ほどのところでバタバタと倒れてしまったのだ

 

藤堂はキャビネットに肘をつきコーヒーを飲みながら昨日のゲームを思い出した

「もー、お前ら強さが反則、ゾーンどころじゃねえのな、5人とも容赦ねえし、3Pラインダンクとか普通にやるし、なんか天使の微笑みで悪魔のようなダンク何度もぶちかまされるし、途中から観戦状態だったわ俺」

「チーム全員があーゆう波動ってないからすげえ気持ちよかった、特に海空はずっと本気でプレイできてなかったから楽しそうで良かったよ」

「ん?手抜いてたの?なんで?」

「そういうんじゃないんだけど、向こう(5世界)は魔法NGのスポーツって人気なくて部員少ないからさ、子供の頃も中学ん時も海空は早くからキャプテンやっててゲームメイクに気を使ってたんだよ、藤堂さんが言ったみたいに他のメンバーが観戦状態にならないようにしてたっていうか、俺と明澄は好きにプレイさせてくれてたんだけどさ、今回は夏向さんも陵介さんも最初から魂上がってたから気遣い必要なしでやれたんだ」

「あー、確かにな、俺らも空海さん達が覚醒?完全にスイッチ入った第2Q途中から俺と天星ボールほぼ触れてねえもんなぁ、手え出せなかった、まったくついていけなかったからな、部活でそうだとつまんなくなって辞める奴いそうだもんな」

優弦はコーヒーカップの蓋の吸い込み口を確認しながら眉をハの字にした

「でしょ?人数いないと、数少ない試合にも出らんないしね」

「そういう意味じゃ夏向も高校時代気を使ってたのかなぁ、昨日のほうが容赦なかったし楽しさが全開だったなあいつ」

少し遠くからワイワイと話声が聞こえてきた、まだしつこく小言を言っている天星の声も近付いてくる

海空が優弦に気がついてハイタッチした

「あ、優弦こっちに逃げてたんだな正解っ、聞けよ先輩達ずるいんだぜバスケの時さ具現化の応用でスタイル寄せできるらしくてNBA選手寄せでプレイしてたんだぜ、空海先輩はステフィン・カリー、最澄先輩はレブロン・ジェームズ、晴明先輩はディアンジェロラッセルだって強ええはずだよな」

空海がなに言ってんだって顔をしている

「寄せても自分が混ざるから仕上がりは別者100にはなんねえよ、それにあのまま最後までやってもお前ら勝ってただろうが、第1、2Qでえげつねえ点差にしやがってよ」

晴明が口を尖らせた

「もう少し早く自分のもんにできて完成度があがってればなー、悔しっ、次は頭から容赦しねえ」

最澄も悔しそうだ

「動画ももっと見とけばよかった、でも楽しかったな、またやろうよ」

明澄が真面目な顔で

「悔しがってますけど、へばったので僕たちの敗けですよ?」

あっ!と海空が好奇心いっぱいの表情で

「ちなみにサッカーだったら誰寄せするんだ?興味あるんだが?」

最澄が取られないぞと言わんばかりに素早く答えた

「三笘 薫選手寄せでいかせてもらうよ」

「ああっ、そこいかれた、最ちゃん早ええよ、んーメッシ選手で」

「じゃあ俺はクリスティアーノ・ロナウド選手でいこうかな」

みんなの顔がこれは楽しいゲームになりそうだという表情になった

空海が天星のほうを見て不敵に笑った

「よーし、のってきた今度サッカーもやろう、あ、藤堂はこっちな、天星お前はあと10人揃えろゲームしようぜ」

天星は勘弁してくれという表情で顔を押さえた

「ちょっと待てえ、そんな高次元でプレイする奴ばっかいる化物チーム相手にしろっていうのかよ?脳ミソ鬼でできてんのか?このやろう、ってかなんで俺だけ敵だよ?」

夏向がにっこりと微笑んだ

「兄さん大丈夫ですよ?俺サッカーは授業でやったことあるってくらいですから」

他の皆も俺もだと頷いた

「イヤイヤイヤ、そうだとしても騙されねえよ、俺は知ってる、いざやるとなると絶対えげつねえレベルの仕上がりにしてくることをよ、夏向だけじゃねえ、お前ら全員そういう匂いがプンプンしてんだよ」

晴明が(あれっ)と空海のほうをみた

空海、控えも欲しいし人数たりないよ、あと誰かいるかな」

空海は心当たりのある顔だ

美凪平安神宮のとこで蹴鞠やってる幽霊の麿眉くん3人いるじゃん誘おうぜ」

「いいじゃん、マロくん達、具現化可能だよな、たぶん」

天星が仁王立ちになっている

「どいつもこいつも人の話を聞かねえな、勝手に話進めんじゃねえよ、、あん、待てよ、表の防衛省のサッカー部にこのメンバーぶつけてボッコボコってのもありか、、」

それをみて藤堂が注意した

「おい、悪い顔になってるぞ?、、そうだ皆うつしよ組の魔法習得に協力するトレーニング合宿の準備、手伝いよろしく、俺フィジカルトレーナーの資格もあることだし一緒に行ってサポートすることになってるから、空海さん達の話聞いてるとフィジカルも大事みたいだからガチ部活合宿みたいになると思う」

未だ納得いかない天星をよそに皆、はーいと返事を返した

 

日和ってる奴はだいたい友達 21

日和ってる奴はだいたい友達 21

 

天星は目覚めた時、しばらく天井を見つめた、、(どっちだ…)細く息をはいた、ここのところ毎日のようにやってくる侵略者の対策におわれ、ずっと職場の仮眠室で寝ていたのだ家なのか職場なのか一瞬迷ってしまった、(ダリぃ)ゆっくりと起き上がりクローゼットの前に立った(職場に置いてあったスーツクリーニングに出したんだっけ、持っていかないとか)あくびをしながら着替えてリビングダイニングに向かった

「「おはよう」」

天星に気づき先に起きていた父、悠一郎と母の天音が朝食をとりながら声をかける

「おはよ、家の朝、久々な気がする…うわ、テーブルのうえ、朝メシの量じゃねえくらいのってんな?」

野田が汁物をわきに置いて微笑んだ

「育ち盛りがいますからね」

「そうだったな」

野田は汁物を配り終えたトレーをキッチンカウンターにおき、化保護猫シェルターも兼ねた屋根付きウッドデッキに猫のご飯を用意して何処というわけでもなく少し声を張って呼んだ

「いっちゃーん、タコくーん、ごはんだよーっ、皆にも伝えてー」

米を口に運びながら天星が(うん?)と怪訝な顔をした

「いっちゃん?タコくん?そんな奴ウチにいたっけ?」

食卓に座っていた3人の足に柔らかく激突してくる複数の生き物に気がついた

(ふふ、きたね)野田が3人の足元を見ながら説明した

「このハチワレの子が、いっちゃん、天星さんの足元にいる子がタコくんです、この子達に言うと他の猫ちゃん達にも伝えてくれるんですよ」

天星も悠一郎も驚いている

「この化け猫ちゃん達コミュニケとれんの?ムリなんだと思ってた」

「5世界の少年達が来てからですかね、言ってることがよくわかるのはいっちゃんとタコくんですけど他の子達も表情が出てきてます、甘えるようになりましたし」

天星は足元を見て首をかしげた

「こいつ、なんでタコなんだ?」

「海空くんが言うには、この子だけしっぽが8つに割れてるらしいですよ、他の子は5つみたいですね」

ネーミングセンスを哀れに思いながらタコくんを撫でた

「猫的にはタコでいいのかよ、ん?」

タコくんはグレーと白のボーダーのポムポムのしっぽを扇のように広げてみせた

「あはっ、なんでドヤ顔なんだよ、、うん、かっこいいぞ」

悠一郎と天音は猫達を撫でながら思わず笑った

「きっとあの子達もそんな風にいっぱい話して褒めたんじゃないかな?嬉しそうじゃないか、徐々にでも成仏してくれるといいね」

猫で両親がいることを一瞬忘れた天星は少し赤くなった

 

廊下から賑やかな声がだんだん近付いてくる

〈 もう、なかなか起きないから 〉

「「「おはよー」」」

続いて夏向と陵介もリビングダイニングに入ってくる

「「おはようございます」」

「「「おはよ」」」

海空がキッチンの野田に声をかけた

「野田さん、ごめんコーヒーもらっていい?俺ら藤堂さんの手伝いであんま時間なさげだから」

それを聞いた悠一郎が席を立った

「合宿の荷物の積込?俺が代わりに行くよ、皆朝ごはんちゃんと食べてね、ゆっくりでいいよ」

天星も席を立った

「親父、俺も行くよ、お前らちゃんと食え、メシに手えぬくな大事だぞ」

天音も時間を見て席を立った

「私もでなきゃ、悠一郎さん、皆の体調に変化があればいつでもリープブレス借りて即行くからって藤堂くんに伝えて置いて」

「OK、忙しいだろうけど宜しく頼むね」

天星が夏向と陵介の前を通りすぎるとき頭をコツン、コツンとゲンコツした

「親御さんに任されてるんだろ?ちゃんとしろ、朝方までゲームさすんじゃねえよ、体壊したら何一つ楽しめねえぞ、楽しみ尽くすために何でもほどほどにすること教えてやれ」

〈〈〈 なんでばれてんの?ゲーム止まんなかったこと 〉〉〉

少年達は申し訳なさそうに夏向と陵介をみる

海空は小声になって自分達のせいで怒られた2人に詫びた

「俺らのせいで、マジごめんな」

「ごめん」

「ごめんなさい」

夏向と陵介は首をふった

「こっちこそ、途中で寝落ちして寝ようって言えなかったね、ごめん」

「俺もだー、寝落ちた、ごめんっ!お前ら寝不足で充血してるよ」

〈〈〈 マジか、ばれたのそれ? 〉〉〉

なんだかしょんぼりしているがモグモグと口は元気に動いていておかわりもした、心とは裏腹にテーブルの上は綺麗に更地になっていった

 

日和ってる奴はだいたい友達 ⑲

日和ってる奴はだいたい友達 ⑲

 

買い物をしたあと、おはぎを買って帰ろうと4条通を皆で歩いていた、つぶあんこしあんがどうとか、たわいもない会話を楽しんでいる

海空が斜め前を歩く最澄に声をかけた、(ん?)と首をかしげながら半歩待って歩調を合わせて海空に並んだ

「なんかさあ、俺、最澄先輩が偉いお坊さんだったっていうのはなんか納得なんだけどさ、空海先輩は違う気がすんだよな、ほんとかよって思うんだけど生きてた時期一緒だろ、知ってる?」

「あはは、そんな感じしない?でもね、ほんとほんと、カリスマ性もあるしすごかったんだよ、でもそうだな時代がいまだったらなってるかなあ?、空海ね具現化してすぐYouTuberやりたいって俺と晴明、巻き添え食ったんだよね、昔は他者に発信できる職とか方法が少なかったから僧になったって気がしないでもないよねぇ」

「マジか、ちなみにYouTubeどんな?」

「おっさん3人がただ飲んだくれて話してる動画かな」

「ははっ、なんだよそれ」

「視聴者は解んないけど俺らはけっこう楽しかったよ、コメントの相談に答えたりしてね、まあ、酔っぱらいの解答なんだけど晴明や空海の話が俺はおもしろくて、笑ってばっかりだった、思い出すなぁ、ふふっ」

話ながら店の前で会計待ちしてる皆に追いついた、店の外から夏向に(それも買ってくれよ)と言っている空海に聞いてみる

空海先輩っていまなりたいもんとかあんの?」

(急に何だ)と呟きつつも、うーん、と腕を組んで少し考え顔で宙を見た

「そだな、なれんならヒーローかな、その1つになんかいろいろ全部ひっくるめて入ってるだろ?そんなかに、な、思わね?」

晴明と最澄ものった

「「なんかいいねー、ヒーロー」」

「ふーん、先輩達そうなのか?、いまも十分ヒーローじゃね?まあ、でもなれよヒーロー協力するぜ?、俺はどっちかっていうとザコ?モブ希望だから引き立てやってやんよ?」

優弦も明澄も同意する

「俺もモブで」

「僕もモブ希望です」

それは夏向と陵介もだった

「俺もモブやるし」

「俺もモブです、協力しますよ」

脇はガチガチにカタマったようである

モブだらけであることに、かくりよ組の3人は解せなかった

晴明が手分けして持つ荷物を受け取りながら疑問をぶつける

「おい、空海、最ちゃん、現在の俺たち欲が無さすぎないか?」

ほんとだよなという空気の中、海空がつっこむ

「仏教って、欲ダメなんじゃないのかよ?教科書で読んだことあるぜ」

空海も(荷物持つぜ)と手を出しながら疑問に答える

「いやあ…ぶっちゃけある意味かなりの欲がないと歴史に名を残すほどのことはできねえと思うが?、何かやりとげるのも欲の種類の1つだろ」

晴明もうんうんと首を軽く縦にふる

「そーそ、悪い欲ばかりじゃないよ、必要な欲もあるさ、なかったら1000年前の歴史的建造物もない、それこそ現代のガスも電気もない、追求もあったらいいなって気持ちも欲じゃん?発展のエネルギー元だと思うけどな」

明澄は意外だったようだ

「そうなんですねー、欲とえげつなさってセットで悪いイメージな気がしてたけど素敵な欲もあるんですね、勉強になります」

家に向かって歩き出そうとしたとき最澄がとなりにいた空海と眼を合わせる

「残りカスのエネルギーで動いてる死んでる俺達じゃなくて、いまの俺達がなってくれるほうがいいのにね?、ヒーロー」

「そうだけどよ、働き方改革ってやつだろ、ヒーロー残業とか多そうなイメージだからな、今はなりたい奴少ないんじゃね?まずよ、敵ってさアポ入れてこねえだろ?俺だって予定たたねえし、やっぱカチンとくるのよ、勝手にくる上にだよ?当たれば即お迎えが来そうなのぶつけてきやがるし、なってねえっての、お前が苦行して躾なおせよコノヤロウだよな?、まあ、アポもとって攻撃しても宜しいでしょうか?って上品な奴はそもそも敵になってねえわな、、あっ、やっべ俺ヒーローなりたいっつったクセに超愚痴ったわ、わりい最ちゃん、ははっ」

最澄はなんだかツボにはまってしまい笑った、別にヒーローになりたいのは嘘じゃないだろうに、そんなこと考えてたんだ人間だねと可笑しくなったのだ

「今度、「来る時は言ってからこいよ」って敵に話してみようか」

「いやあ、できればそれはさ、これから敵とも付き合って向き合っていかなきゃならないあいつらに任せたいんだよな」

帰るまで待てず、おはぎのつまみ食いでわーわーやってる前を歩く皆を眺めた

最澄はにっと笑い

「うん、そうだね、じゃあ俺達は頑張ってヤジでも飛ばそうかね?」

「おう、援護する、ヤジ、得意だっつの」

とりあえず、いまは持っているおはぎは守らなければと思う2人だった

 

日和ってる奴はだいたい友達 ⑱

日和ってる奴はだいたい友達 ⑱

 

海空、優弦、明澄が生まれた第5世界には神社仏閣はない

夏向と陵介は行ってみたいという皆を連れて買い物の前に瑠璃光院を訪れた、幻想的なところがいいというリクエストに答えたつもりだ

(感想は?)と聞こうとしたが夏向も陵介も黙ってかくりよ組とうつしよ組の後ろ姿をぼんやりと眺めた、何かに思いを巡らせる彼らだけが共有している時空を見ているような、そんな静けさが心地よかったのだ、しばらくどこにいるのでもないような、そんな感覚に浸った

ゆったりと流れる時間、床に静かに揺れる新緑を6人は黙って見つめている、上下がわからなくなるのを楽しむように微笑んでいた

口を開いたのは最澄

「ねぇ、空海…思い出したことがあるんだけど、公の場の真面目そうなやり取りとは別に俺は君と本音で話す時は違う領域で魂だけで話してたんだね、これ次元のチャンネルあわせて会話してる感じなのかな、2人で気兼ねなく話す方法だったのか」

何かがきっかけになったのか感覚が思い出される

「俺もおんなじこと考えてた、静かで澄みきっている領域、互いに笑ってるな、水鏡のような床を見た向こう側に最ちゃんがいる、別空間だなぁこれ、次元変えして会話してたのか、、時代背景だったり周りがうるさかったり?現実の最ちゃんとは本音で話せない部分もあったのかもな」

それを聞いていた晴明もそんな感覚が少し思い出されたようだ

「自然体で話すのが難しい環境だったとかね、まぁ、魂だけで別空間で話せば誰にも聞かれないからな、足引っ張る奴とかめんどうな奴もいるじゃん?俺なんか更に結界まで張ってたっぽい、よほど邪魔されたくなかったのかなあ」

(それもどうなんだろうな)と3人は笑いあう

明澄はそういう話しに興味があるようで

「先輩達こういうとこくると前世が甦って気持ちが違うとかあるんですか?」

最澄アゴに指をあててふーんと考えている

「いやそんなに気持ち変わるとか、がっつり思い出すとかはなくて、いまもふんわりだよ、関連したことチラっとくらいだよね?」

空海と晴明も(そうな…)と頷いている

海空はがっかりだというリアクションだ

「なんかもっとがっつり変化欲しかったなー、不思議体験とか?」

空海がわりいなと苦笑いしながら片膝をついて床に手を伸ばす、水鏡とは少し違う温かみのある木鏡のなかで新緑が優しく揺れる

「ただこういう床な…、物質的でないものもすべて映しそうな感じ気持ちいいよ、目線を落とせばすぐにダイブできるような感覚、生きてた俺は何時間も座って宇宙と繋がっていた気がするんだよな」

後ろで聞いていた夏向が笑う

「当たってると思いますよ?俺達凡人が高野山奥の院やゆかりの地に行っても宇宙を感じるくらいだから、エアーカーテンあるのかなってくらい別の領域に入る境界線がわかる、空気違うし、陵介も言ってたよね」

「ああ、あの感じ、ここだけど、ここじゃねえって空気感はすげえよ、地上に宇宙つくった3人だよな」

へぇーっと感心している少年達を夏向が誘う

「落ち着いたらもっとまわろうね、いっぱいあるから神社仏閣」

海空は是非という嬉しそうな顔だ

「うん、いいな宇宙かー、やっぱその土地に行って感じるってクソ大事だよなー」

「だな、でもさ、こういうとこ5世界にもあってもよくね?、心洗われることも必要じゃん」

「僕も同感、神社仏閣あっていいよね、この場で感じてるようなこと大切だもん」

 

皆は話ながら阿弥陀如来の前に移動した

明澄は気になっていることがあってお賽銭を用意しながら聞いた

「僕、願いを叶えてくれるって聞いたことあるんですけど本当ですか?」

かくりよ組の先輩達が即答した

「「「くれねぇよ」」」

お賽銭を持った海空が(えー)とがっかりしている

「マジか、そんなきっぱり即答かよ」

空海は腕を組んで大きく首を縦に振った

「だって結局自分でやるんだぜ?自分に願え、それが一番早い」

最澄も大きく同意する

「間違いないよ、カミサマに頼んでも死にかけたりすんのこっちだからね」

晴明はごめんねって顔だ

「俺は生まれた時から才能あったしお願いはしたことない、するなら命令かな」

……

こいつ何言ってるんだろうという顔をしながら空海が助言する

「まあ、でも言葉は投げとけよ手は貸してくれるぞ、感覚でしかねえけど見えない力がなかったら俺は生きてるときあそこまでやれてねえからな」

最澄もそうだねという表情だ

「それは俺もそう思う天啓的なものは確かにある「こうする、とか、こうなる」って言っとくと、すべきことやヒントが目の前に現れるよね、気づけるかどうかは別としてだけど、気づけたら間違ってないって自信もって迷わず進める材料にはなるでしょ」

晴明がちょっと考え顔で聞いた

陰陽師も吉凶を占い進む先を決めたりするだろ?占いなら良いとか悪いとか出るけどそれって正解、不正解わかるのか?」

最澄がなんか思い出さないかという顔で上を見る

空海、唐に行ったの覚えてる?」

帰りに寄る店をスマホで調べていた空海が一瞬目線を上げた

「んあー、行ったのは覚えてるみたいだ」

「あの時代、船で外国なんてかなり危ないよね?嵐で沈んだらどうしようとか怖くなかった?」

スマホを操作しながら無意識に答えた

「いや?沈まないって知ってたから怖くねえよ、最ちゃんも知ってただろ?」

前世を拾う感覚でごく自然に答えが帰ってくる

「確かに俺も知ってたんだろうねその感覚はあるよ、だから船に乗った、空海はなんで無事に行けるって確信があったの?」

なんでだろう、という顔でスマホから顔を上げた

「んえ?…………えっとぉ止めらんなかったから?上手く言えねえんだけど」

晴明はあー、そっかという表情をしている

「2人はごく自然にメッセージ拾えてたんだね」

最澄が(たぶんね)と続ける

空海が、俺が、乗った時点で航海は成功する、、不正解なら背中を押されないし止められる、ヒントはふんわりだけどgoとstopの違いは空気感かなりはっきりしてたんだと思うよ、ネットとかで自分達がやってたことみると、そうでなきゃ俺も空海ももっと早く死んでたかもねって思うし」

 

後ろでその話を聞いていた夏向と陵介は同じことを思い出していた、5世界で少年達の両親に会ったときのことだ、「彼らが行くと言うなら大丈夫」あの時はなぜそう言えるのか危険なところに送り出せるのか、大丈夫だと信じて笑って見送るのか、2人はよくわからなかった、両親達は彼らが子供の頃から最澄が言うようなgo、stopを自分達も巻き込まれながら見てきているのだろう、危険察知能力が高いとは少し違うのか?不思議な気持ちで少年達の成長をみていたのかもしれない

 

夏向は思い出しながらひとりごちた

「そういうことだったんだ、やっぱり受け継いでるとこあるんだな」

陵介が隣でやっぱりと反応した

「夏向が何考えてるかわかるぜ、たぶん一緒な、俺は特に「死なないだけでケガとかはするから」みたいなこと誰かのオヤジが言ってたの思い出したよ」

ふはっ、夏向は片腹押さえた

「それ、俺も聞いたときすごい気になったよ、死なないだけって何ってね?、みんなのお父さん達たぶん無事だけど痛い目にあってるってことだよね、それで一緒に行動する俺達に警告したんだ」

ただ先輩達の話を聞いていた少年達のリアクションは他人事だった

「先輩達スゲーな、そんな便利なスペックあんのかよ俺も欲しかったわ」

「な、肝心なとこ受け継がれてないじゃん」

「僕にもないよ、誰か一人でもあれば良かったよね」

備わっている能力に自覚はないようだった

海空が何かこんがらがったようで確認する

「ってことは、先輩達は願いは叶えてもらえないが、これみろ、あれやれ、ここに行け、それ違うぞ、みたいなことで何かに助けてもらえたってことでいいか?」

最澄が(まあ、そんな感じだよね)と首をかしげて空海と晴明を見ると2人も軽く頷く

空海が所々の記憶ではこうかな?という想像もしつつ話す

「短い寿命で効率的にやりたいことクリアしてくのに人間1人の微々たる力じゃムリだろ?他人の力と見えない力を最大限借りてたんだろな、ただこっちもけっこうなことやんねえと借りられなかったんじゃねえかなと思うけど…修行とか、、まあ、想像な」

それを聞いていた海空は(うーん)とやや困り顔でお賽銭を入れて手を合わせた

「今日はお邪魔しました、ありがとうございました」

隣で手をあわせようとした優弦がつっこむ

「あれ?海空それだけ?、なんか言わなくていいのか?」

「うんいい、むずい、手貸してくれそうな気がしねえ何していいかわかんねえし、先輩達は手を貸して貰えるだけの何かをしたんだろ?、たぶん、まず自分のレベル上げが必要みたいな気するしな、だからいい」

明澄もモヤっとした表情でしばらく手をあわせていたが

「そうだね、僕も他力本願で叶えてくれるっていうならいっぱいあるけど自分がってなると自信もって言えないよ」

先輩3人は海賊王になる!でも何でもでかいこと言うだけはタダなのにとあきれていた

〈〈〈 なんか言えよ、びびりすぎだろ 〉〉〉

(叶えてくれると言えば)と夏向が空海達に笑う

「俺、空海さん、最澄さん、晴明さん関係の地は願い叶えてくれそうな空気すごく感じるんだけどな、そういう意識あるんですか?」

空海が腕組みして(へぇ)と笑った

「え?俺らそうなの?そこ全然わかんねえわ、その地には残ってるんだろうけどな、夏向は俺らにお願い聞いてもらえたのかよ?」

それはとても素直で透明な満面の笑顔だった

「はい、いま目の前にいて助けてもらってます、さすがのオールスターですよ、ありがとうございます」

目一杯感謝を浮かべた笑顔を前に一瞬で3人は真っ赤になった

いつも堂々としてるくせに、なんだか耳まで真っ赤になって照れている3人を見て陵介は力ぬいてくれたかなとほっとしたような気分になった

生前、成し遂げていることから、その時代に普通に会っていればこの人達は天才だと思っただろう接し方も変えたはず、天才はずっと天才であることに疲れなかったんだろうか?成すべきことに一生懸命でそんなこと考えもしなかったかもしれない、人が見ているところだろうが見ていないところだろうが3人ともめちゃめちゃがんばる天才だったのだろう、だって天才というだけでは天は手を貸さない、想像を超えた先人達の努力の上に自分達は立っている、裏防衛省の皆は彼らに関わっているうち、ここにいる間は素直に照れ、笑い、怒り、喜び、口汚くも、遊び、美味を、心のどこかで自分を癒し力を抜いて楽しい時間も過ごして欲しいと思っている、1000年以上前から来てくれたのに、もてなすどころか守られている、足手まといにしかならない自分達が毎回現場について行っては疲れも倍増のはずだ、それでも「いつもありがとう」と言ってくれる天才達、同等とまではいくはずもないがせめて自分のことくらい何とかできるように成長したいところだ、偉人で天才だからって頼りっぱなしで当たり前なわけない

(よし、後ろじゃなくて隣で戦うんだ)、と陵介は手を合わせた

晴明がそれに気がつき

「陵介、なんか願うつもりか?いま1000円入れただろ、晴明神社には50円だったじゃん!許せねえ」

「そうなのか?怒っていいぞ晴明、東寺や神護寺の時はどうだったんだ?50円か?正直に言ってみろ陵介」

最澄が意地悪っぽく陵介の肩に手を回した

「1000円の願いって何?どんなの?聞かして?俺達に直に頼めばよくない?」

(みんなに頼んだら意味ねえんだよ)モゴモゴと別に何もとごまかす何も言えない陵介に夏向は少々、心配して

「陵介、いつも小銭入れてるとこしかみたことないよ?どうしたの?札の願いって重さが違うよね、1万円とかいくともう命に関わるっていうか」

いったいどんな基準なのか、その大袈裟さにまだ手を合わせてなかった優弦は早々に何も願わず済ませた

「何?命って、神社仏閣なんか深けえ」

「俺ら馴染みねえからわかんねえけどさ、でも料金表あったほうがはっきりしてて良くねえ?」

ダメでしょ、という顔で海空を横目に見ていた明澄が無邪気に聞いた

「で、陵介さん1000円で何言おうとしたんですか?」

〈 ああ、もうっクソっ、俺の決意が… 〉

もう台無しだと泣きそうな気持ちになりながら陵介は決意(言い訳)を焦りつつ考えた

「…明日のみんなの朝ごはん、エッグベネディクトを上手に作る宣言しようとした…かな」

「「「「「「「マジか、あれ美味いよなー!いまから楽しみだ」」」」」」」

さて、行くぞと皆上機嫌だ

食べ物に気をとられ?、それ以上突っ込みはなかったことに陵介はほっとした

〈 まあ、いいか…美味い朝メシ食って笑ってくれれば、それも 〉

とても小さなところからクリアしていく陵介だった

 

 

 

 

日和ってる奴はだいたい友達 ⑰

日和ってる奴はだいたい友達 ⑰

 

(了解)と美凪は明澄の前に立った

海空と優弦は壁側に並んでいる1人掛けソファで着替えながら様子を見ようと移動した

 

「えっとそうだな、、利き腕の肩に手をのせていい?」

「うん、よろしくね、僕はどういう状態でいればいいかな」

そばにいた夏向が説明した

「5世界で丞先生と製作したもののこととか頭に浮かべてもらえるかな、美凪くんの能力はさわってる相手が関わった物の工程をスキャンできるんだ、すぐ3Dデータにして作れるようにシンプルにはっきりだとすごくいいけど…難しいよね」

「いえ、僕はそういうの得意かも、美凪くん0世界の状況から優先順位が高く、取り急ぎ必要だと思ってるものが3つあるんだけど」

「ああ、だったら1つづつ頭に置いてくれればいいよ、1つスキャン終わったら肩を軽く叩くから次を出してもらうって感じでいいかな」

「夏向さん、優先順位勝手に決めてごめんなさい、急いでるなら絞ったほうがいい気がして」

「ううん、むしろありがと、助かるよ」

明澄は美凪に向き直り眼を閉じて1つ目の工程を鮮明に思い浮かべた

美凪は軽く肩を握った

「そのまま、じゃ始めるね」

美凪と明澄のまわりの空気が揺れて肌にまとい触れる感じがした、着替えながら陵介と話をしていた海空と優弦も変化に気づいて空気が揺らいだほうを見る

美凪は伏せていたペリドットのような瞳をゆっくりと動かす瞳の中の光が何かをとらえた、さわっている肩のやや上に目線をそらす

「嬉しくなるくらい鮮明だね、綺麗だ、人によってイメージのしかたってこうも違うんだね、しかも残像をまったく残さず次にいく、やりやすいな修正いらないよ」

眼を閉じたまま明澄は笑った

「イメージあってそうだね良かったよ」

「ああ、最高だよ細かい部分まで拾えたし終わったよ、繋がり切るね」

バチっっ、、皆驚いて肩をすくめた

美凪が手を離した瞬間、部屋中に響くほどの音と稲光のようなものが走った

〈〈 いってーっつっ 〉〉

「あー、ごめんな、俺、能力使うとなんか静電気すごいんだよ今日特にやばい!」

「夏向、いったん美凪くんが取ったデータ落とすか」

「そうだね、ちょっと行ってくる明澄くんも着替えてて」

そう言って3人は部屋を出ていった

 

明澄も壁側のソファに座って着替え始めた

渡された紙袋の中は意外と品数が多かった、ジャージ上下、Tシャツ、ハーフパンツ、コンプレッションレギンス、組み合わせはいろいろとできそうだ

先に着替えていた2人は制服を畳みながら話す

「下着とかTシャツとか買い足しに買い物連れてってくれるってよ、あと神社仏閣も連れてってくれるって楽しみだな」

「だよな、あ、スニーカーも5、6足用意しろってネット見て選んどくか、準備できしだいトレーニング行くって言ってたよな」

「おー俺ら強くなって魔法使えるようになれんのかなー」

〈〈 だといいよな、ははははっ 〉〉

「2人とも笑ってるけど靴5、6足もいるってやばくない?どんなトレーニングなの不安じゃないの?」

海空と優弦は顔を見合せた

「「いや?ない…」」

「むしろ楽しみなんだが?なんで不安?なぁ?」

お前不安か?という顔で優弦のほうをみる

「ああ、ほんとな、なんでだよ?お前運動神経いいじゃん」

明澄はそうだったと思いながら

「君ら未知なことに不安感じるタイプじゃないからね、、辛いの想像しないのね」

2人とも(う~ん?)という顔だ

「魔法教えてもらうのに筋肉とかエグいトレーニング必要ねえだろ、心配なくね?」

「そーそー、だとしても明澄はどっちかいえば武器製作とか手伝いたいんだろ?そっちメインでやればいいじゃん?俺らコツつかんだら教えるしさ」

「まぁ、どっちみち僕はそうなるだろうね」

(だな)頷きながら海空はソファに座って何か一点を見つめた

「な…明澄、勝手な頼みだけどさ、できるだけ協力してやってくれよ、危ねえとこ行ってる先輩達みると、なんだかな…落ち着かねえってゆうか」

服に腕を通しながら一瞬動きを止めた

「うん、わかってるよ、こっちの世界全然魔法ないみたいだし、そういう人がただの普通の武器持って迎え撃っても相手が魔法使えるなら絶対にかなわない、いま敵が少なくて滞在時間も短いのは向こうが開くゲートがこちらの世界と相性が悪くて大勢でこれないとか、理由があって長く開けないんだろうけど、調整が上手くいったら一気に攻めてくるかも、やばいよね」

「その通りだよ」

声に反応して3人はドアのほうをみた

「夏向さん…」

戻ってきた夏向と陵介が立っていた

「いま、俺達ね空海さん達に同行したりするけど足手まといなだけなんだ、、素手でとか銃とか剣とかあったとしても冷静に考えて無理だなって…一瞬で消されるなって思う、でも急に超能力のようなことできるわけないし焦るばかりだよ」

「明澄くんはさっきスキャンの時そのへん考えてくれたんだろ?サンプルできたらムダにはしねえよ使いこなしてみせるからさ、こっちにいる間協力たのむぜ、もちろん魔法習得にも協力するからさ」

 

 

日和ってる奴はだいたい友達 ⑯

日和ってる奴はだいたい友達 ⑯

 

オペレーターからの館内放送が入る

 ー 無動寺、鞍馬寺石山寺付近に出現、かくりよ組と職員は現地に向かってください ー 

 

ちょっと行ってくるとあわただしくかくりよ組と数人が出て行った

「なぁ、大丈夫なのか?」

こうして出動していく姿を見るとなんでもない日常が急に非常時に変わるのだと実感がわいた、急に不安が沸き上がる

夏向は呟いた優弦の背中をぽんと叩いた

「大丈夫だよ、地上からみたいだし強いのじゃないと思うから」

強いとか弱いとかそんな問題じゃないのは解っている、この状況になってから見送るということがものすごく怖いのだ、もちろん自分が行く時も不安と恐怖に苦しくなる気をつけたからと無事は約束されていない危険な場に送り出すのだ、慣れるはずもない。

ここにいる誰もが、まだ本格的ではないであろう侵略を今のうちに止められたらと思わない日はない

陵介に行こうと肩を叩かれてはっとして夏向は息を吸う気を取り直して前を向いた

「さぁ、藤堂さんたちのエリアに行こう紹介する、君達を待ってるよ」

 

オープン階段の一つを2階に上がっていくと通路なのか部屋なのかよくわからないところに出るフリースペース側の通路の手すりの方にもオペレーター席が並べられているからだ、そこから2mくらい後ろに長方形のオフィスがある、かなりごちゃごちゃしており通路確保のためか "ここからはみ出るな"と書かれたガムテープが床に張られている

 

夏向がある人と目を合わせ手をふった、それに気づいた人物はもう2人誘い合わせて男性2人と女性1人が近付いてくる

見た感じ清楚の塊のような美女が手を差しのべた

「お待ちしてました、自分、会えて光栄至極っすよ、朝日奈 凛香(あさひな りんか)っす!よろしくっすぅ!」

少年達に次々とハンドシェイクしていく

「「「あ…ああ、よろしく…」」」

空気を読んだ陵介がフォローする

「朝日奈さん、ジャージが着物かドレスに見えるくらい清楚な顔面でその勢いとキャラは引きますって」

「あは、いつも第一印象引かれるとかヤバイっすね、兄弟私以外4人男で話し方移っちゃって気をつけてるっ…んですけど」

陵介が苦笑いしながら紹介の続きをした

「で、こちらが 藤堂 瑠衣(とうどう るい)さん、ちなみに夏向の兄さんの同級生だ」

藤堂がにっこり笑って右手を出した

「俺はこっちにいる間かなり関わることになるよ、よろしくね」

「そして、君らと同級生、こっちの桜香高校に通ってる、んで、ここでバイトもしてもらってる 是枝 美凪(これえだ みなぎ)くんだ」

「よろしく、美凪でいいよー」

3人も名前を言いながらハンドシェイクした

陵介が通路と呼べなそうな通路の先を指差す

「ちなみにこのカオスの向こう側がリープブレスとか作ってる俺達の作業部屋で、美凪くんはそこでバイトしてくれてるんだ」

藤堂達の自己紹介の間に荷物を取りに行っていた朝日奈が紙袋を3つ持って戻ってきた

「陵介さんの作業部屋でこれに着替えてほしっす、で、今着てる制服は自分に預けてほしいっすよ」

「ちょっと細工するけど悪いようにはしないから安心して?」

そう言って藤堂が微笑む

少年達は解ったと頷き荷物を受け取った

陵介が藤堂と朝日奈にまた後でと手を上げて作業部屋を指差す

「さっ、じゃあ着替えに行こか」

 

人が横切ったり席や荷物があったりと少々歩きにくい通路を進み部屋に入る、入って右手には10人くらいが作業しており、お疲れという声が飛び交う軽く答えながら左手のミーティングルームに入った

 

部屋の真ん中には大きなテーブル席があった少年達はとりあえず渡された紙袋をのせる

壁側にならんでいる1人掛けソファの一つに美凪バックパックを置いて振り返ったテーブルの上で紙袋の中を覗いている皆に近付く

「もしかしてその中ってさ…」

海空が顔を上げた

「ああ、期待裏切らねーな、やっぱ俺らもBMDジャージにされんのな」

優弦がため息混じりに

「な…まぁ黒ってのが救いじゃん?」

明澄は胸に当ててサイズを確認している

「そうだよね、エンジとか明るい青とかだと人選ぶもんね」

イスに座り脚を組んだ上にほおずえをついて夏向はあきれ顔で言う

「でしょ、兄さんは斜め上からのセンスでNGカラーばっかり選ぶから俺だけでは止めきれなくて皆が死ぬ気で止めてくれて掴んだ黒だよ」

「そーそー、外歩けねぇ色ばっか選ぶから本気で心配になって眼科連れていったら正常だしな、マジ意味解んなかったわ、お前の兄貴」

やれやれという空気が蔓延した

あ、そうだと姿勢を変えた夏向

美凪くん、着替える前に明澄くんをスキャンしてもらっていい?」

 

 

 

 

 

日和ってる奴はだいたい友達 ⑮

日和ってる奴はだいたい友達 ⑮

 

あーだこーだ言い合い賑やかな様子を眺めていた最澄

「こういう時代に生まれてみたかったな…あ、いや生まれてるんだったね、ごめん」

そう言いながら明澄を見た

明澄はクスッと笑う

「具現化できてるなら変わらない気がするんですけど?でもなぜお坊さんにしなかったんですか?」

「だってもう死んで終わってはいてさ、生きてた頃の記憶は所々しかないし、覚えてても同じはないかなー、こうしてても1秒前と同じ自分も無いしね同じでなくていいのが時が過ぎ行くメリットでしょ、空海達が高校生イケメンにメタモルフォーゼして青春したいってのに賛成だよ」

空海最澄の肩にひじをかけながら話に入る

「だよな、最ちゃん、せっかくのアディショナルタイムだ、前と同じって選択肢はないぜ、な?晴明」

「楽しまないとね、前のおっさん具現化の時、姿が天星寄せだったから変えたくてさ、怒ってばっかの奴はやだからな」

「いや、おっさんで寄せんな、おっさんじゃねぇわ まだ28だ」

「そうなのか?わるい、俺らの時代寿命短いからおっさん認識だったわ」

 

雑談に笑いながら、最澄が記憶と言ったことに反応した海空

「一応、言っとくと俺ら3人前世の記憶ないからな、んで記憶ないのは俺らの意思だから」

その場の全員どうしてだという顔をしている

 

5世界の人間には前世の記憶がある、生まれた時からゆっくり思い出し中学生ぐらいから記憶が甦るスピードが速くなる、それはもちろん素晴らしい記憶ばかりではない、ゆえに記憶に苦しむ者も少なくなかった、その苦しみを取り除くために生み出されたのが前世をデリート処理する治療である、メンタルヒーリングの魔法を得意とする海空の祖父が考えた治療で今は海空の父も土御門クリニックでおこなっている、記憶のスピードが速くなる前に止めることも可能で少年達は記憶を止めることを選択した。

 

ランダムに置かれたソファにいい加減な座りかたをしつつ優弦が口を開いた

「生まれかわり出会う人間は土地、時代、何かで触れ合っている可能性が高いって聞いて前世では俺が2人を傷つけてるかもしれねぇし、逆もあるかもだろ?変わらず付き合える強さが自分にあんのか怖くなってさ」

明澄も首を縦にふる

「僕も小5くらいになる頃凄く悩んだ、変わらずにいられる強さがないかもしれないと思うと怖くて辛くて、でも海空にも相談したらあっさり記憶を止めるって決めてるからって言われて…予約までしてて」

海空はどこかで少しでも不安を感じるなら消すとわりと早く決断していた

「この時代の現在の選択権は俺が持ってる、なら、前世の記憶はいらない現在を大事にするって決めた、それが結果、過去も未来も喜ぶ選択だと思ってるんだが…」

 

この治療が広がり始めたのがまだ最近の話だというのもあるが、5世界に生まれたら自分のカルマも人のカルマも見えてしまう、それには意味があり、そこを乗り越えてこそという考えも根深く、記憶をデリートする治療をおこなうことは逃げであると嫌みを言う人もいる、歴史に詳しい識者によると、5世界に戦争がないのはカルマが見え背負いたくないからだ、残すべきだという意見もある

 

「俺と明澄はさ、なんか消すことに罪悪感あったんだよ、でもそれに囚われて現在を最悪にしちゃ意味ねぇかなって思ったしな、お前の答えで吹っ切れた感じだったよ」

最澄がなんか大変だったんだね?という表情で

「記憶なくても大丈夫だよ?俺達わりと有名人だからネットで検索すると大抵のこと解るから、ね?空海、晴明」

「おお、便利な世の中だぜ、でもさ、顔あってる?もうちょっといいのあっただろって思うときある」

これはゆるすまじと最澄が鼻息を荒くした

「あっ、それな!解る俺なんかおじいちゃんぽいのとかさ!悔しいのがズルいよね!晴明ばっか全部イケメンで出てくんの、晴明神社の像と全然違うじゃん!」

「え?俺ぇえ、、たぶん2次元で想像したらイケメンだったんだろ?…ってか、おそらく俺ら冗談抜きで現在がピークだと思うんだが?」

空海最澄も同感である

〈〈〈 具現化に感謝してる 〉〉〉

空海、俺達生きてる頃がんばったよね、平安女子はNGだったけど現代女子にはモテてもいんじゃないの?」

「十分我慢したと思うぜ、ちょっとくらいモッテモテ経験したいよな」

(うぇーい) 3人はハイタッチした

皆で笑っているところに侵入者出現の緊急警報が館内に鳴った。