日和ってる奴はだいたい友達 ⑯

日和ってる奴はだいたい友達 ⑯

 

オペレーターからの館内放送が入る

 ー 無動寺、鞍馬寺石山寺付近に出現、かくりよ組と職員は現地に向かってください ー 

 

ちょっと行ってくるとあわただしくかくりよ組と数人が出て行った

「なぁ、大丈夫なのか?」

こうして出動していく姿を見るとなんでもない日常が急に非常時に変わるのだと実感がわいた、急に不安が沸き上がる

夏向は呟いた優弦の背中をぽんと叩いた

「大丈夫だよ、地上からみたいだし強いのじゃないと思うから」

強いとか弱いとかそんな問題じゃないのは解っている、この状況になってから見送るということがものすごく怖いのだ、もちろん自分が行く時も不安と恐怖に苦しくなる気をつけたからと無事は約束されていない危険な場に送り出すのだ、慣れるはずもない。

ここにいる誰もが、まだ本格的ではないであろう侵略を今のうちに止められたらと思わない日はない

陵介に行こうと肩を叩かれてはっとして夏向は息を吸う気を取り直して前を向いた

「さぁ、藤堂さんたちのエリアに行こう紹介する、君達を待ってるよ」

 

オープン階段の一つを2階に上がっていくと通路なのか部屋なのかよくわからないところに出るフリースペース側の通路の手すりの方にもオペレーター席が並べられているからだ、そこから2mくらい後ろに長方形のオフィスがある、かなりごちゃごちゃしており通路確保のためか "ここからはみ出るな"と書かれたガムテープが床に張られている

 

夏向がある人と目を合わせ手をふった、それに気づいた人物はもう2人誘い合わせて男性2人と女性1人が近付いてくる

見た感じ清楚の塊のような美女が手を差しのべた

「お待ちしてました、自分、会えて光栄至極っすよ、朝日奈 凛香(あさひな りんか)っす!よろしくっすぅ!」

少年達に次々とハンドシェイクしていく

「「「あ…ああ、よろしく…」」」

空気を読んだ陵介がフォローする

「朝日奈さん、ジャージが着物かドレスに見えるくらい清楚な顔面でその勢いとキャラは引きますって」

「あは、いつも第一印象引かれるとかヤバイっすね、兄弟私以外4人男で話し方移っちゃって気をつけてるっ…んですけど」

陵介が苦笑いしながら紹介の続きをした

「で、こちらが 藤堂 瑠衣(とうどう るい)さん、ちなみに夏向の兄さんの同級生だ」

藤堂がにっこり笑って右手を出した

「俺はこっちにいる間かなり関わることになるよ、よろしくね」

「そして、君らと同級生、こっちの桜香高校に通ってる、んで、ここでバイトもしてもらってる 是枝 美凪(これえだ みなぎ)くんだ」

「よろしく、美凪でいいよー」

3人も名前を言いながらハンドシェイクした

陵介が通路と呼べなそうな通路の先を指差す

「ちなみにこのカオスの向こう側がリープブレスとか作ってる俺達の作業部屋で、美凪くんはそこでバイトしてくれてるんだ」

藤堂達の自己紹介の間に荷物を取りに行っていた朝日奈が紙袋を3つ持って戻ってきた

「陵介さんの作業部屋でこれに着替えてほしっす、で、今着てる制服は自分に預けてほしいっすよ」

「ちょっと細工するけど悪いようにはしないから安心して?」

そう言って藤堂が微笑む

少年達は解ったと頷き荷物を受け取った

陵介が藤堂と朝日奈にまた後でと手を上げて作業部屋を指差す

「さっ、じゃあ着替えに行こか」

 

人が横切ったり席や荷物があったりと少々歩きにくい通路を進み部屋に入る、入って右手には10人くらいが作業しており、お疲れという声が飛び交う軽く答えながら左手のミーティングルームに入った

 

部屋の真ん中には大きなテーブル席があった少年達はとりあえず渡された紙袋をのせる

壁側にならんでいる1人掛けソファの一つに美凪バックパックを置いて振り返ったテーブルの上で紙袋の中を覗いている皆に近付く

「もしかしてその中ってさ…」

海空が顔を上げた

「ああ、期待裏切らねーな、やっぱ俺らもBMDジャージにされんのな」

優弦がため息混じりに

「な…まぁ黒ってのが救いじゃん?」

明澄は胸に当ててサイズを確認している

「そうだよね、エンジとか明るい青とかだと人選ぶもんね」

イスに座り脚を組んだ上にほおずえをついて夏向はあきれ顔で言う

「でしょ、兄さんは斜め上からのセンスでNGカラーばっかり選ぶから俺だけでは止めきれなくて皆が死ぬ気で止めてくれて掴んだ黒だよ」

「そーそー、外歩けねぇ色ばっか選ぶから本気で心配になって眼科連れていったら正常だしな、マジ意味解んなかったわ、お前の兄貴」

やれやれという空気が蔓延した

あ、そうだと姿勢を変えた夏向

美凪くん、着替える前に明澄くんをスキャンしてもらっていい?」

 

 

 

 

 

日和ってる奴はだいたい友達 ⑮

日和ってる奴はだいたい友達 ⑮

 

あーだこーだ言い合い賑やかな様子を眺めていた最澄

「こういう時代に生まれてみたかったな…あ、いや生まれてるんだったね、ごめん」

そう言いながら明澄を見た

明澄はクスッと笑う

「具現化できてるなら変わらない気がするんですけど?でもなぜお坊さんにしなかったんですか?」

「だってもう死んで終わってはいてさ、生きてた頃の記憶は所々しかないし、覚えてても同じはないかなー、こうしてても1秒前と同じ自分も無いしね同じでなくていいのが時が過ぎ行くメリットでしょ、空海達が高校生イケメンにメタモルフォーゼして青春したいってのに賛成だよ」

空海最澄の肩にひじをかけながら話に入る

「だよな、最ちゃん、せっかくのアディショナルタイムだ、前と同じって選択肢はないぜ、な?晴明」

「楽しまないとね、前のおっさん具現化の時、姿が天星寄せだったから変えたくてさ、怒ってばっかの奴はやだからな」

「いや、おっさんで寄せんな、おっさんじゃねぇわ まだ28だ」

「そうなのか?わるい、俺らの時代寿命短いからおっさん認識だったわ」

 

雑談に笑いながら、最澄が記憶と言ったことに反応した海空

「一応、言っとくと俺ら3人前世の記憶ないからな、んで記憶ないのは俺らの意思だから」

その場の全員どうしてだという顔をしている

 

5世界の人間には前世の記憶がある、生まれた時からゆっくり思い出し中学生ぐらいから記憶が甦るスピードが速くなる、それはもちろん素晴らしい記憶ばかりではない、ゆえに記憶に苦しむ者も少なくなかった、その苦しみを取り除くために生み出されたのが前世をデリート処理する治療である、メンタルヒーリングの魔法を得意とする海空の祖父が考えた治療で今は海空の父も土御門クリニックでおこなっている、記憶のスピードが速くなる前に止めることも可能で少年達は記憶を止めることを選択した。

 

ランダムに置かれたソファにいい加減な座りかたをしつつ優弦が口を開いた

「生まれかわり出会う人間は土地、時代、何かで触れ合っている可能性が高いって聞いて前世では俺が2人を傷つけてるかもしれねぇし、逆もあるかもだろ?変わらず付き合える強さが自分にあんのか怖くなってさ」

明澄も首を縦にふる

「僕も小5くらいになる頃凄く悩んだ、変わらずにいられる強さがないかもしれないと思うと怖くて辛くて、でも海空にも相談したらあっさり記憶を止めるって決めてるからって言われて…予約までしてて」

海空はどこかで少しでも不安を感じるなら消すとわりと早く決断していた

「この時代の現在の選択権は俺が持ってる、なら、前世の記憶はいらない現在を大事にするって決めた、それが結果、過去も未来も喜ぶ選択だと思ってるんだが…」

 

この治療が広がり始めたのがまだ最近の話だというのもあるが、5世界に生まれたら自分のカルマも人のカルマも見えてしまう、それには意味があり、そこを乗り越えてこそという考えも根深く、記憶をデリートする治療をおこなうことは逃げであると嫌みを言う人もいる、歴史に詳しい識者によると、5世界に戦争がないのはカルマが見え背負いたくないからだ、残すべきだという意見もある

 

「俺と明澄はさ、なんか消すことに罪悪感あったんだよ、でもそれに囚われて現在を最悪にしちゃ意味ねぇかなって思ったしな、お前の答えで吹っ切れた感じだったよ」

最澄がなんか大変だったんだね?という表情で

「記憶なくても大丈夫だよ?俺達わりと有名人だからネットで検索すると大抵のこと解るから、ね?空海、晴明」

「おお、便利な世の中だぜ、でもさ、顔あってる?もうちょっといいのあっただろって思うときある」

これはゆるすまじと最澄が鼻息を荒くした

「あっ、それな!解る俺なんかおじいちゃんぽいのとかさ!悔しいのがズルいよね!晴明ばっか全部イケメンで出てくんの、晴明神社の像と全然違うじゃん!」

「え?俺ぇえ、、たぶん2次元で想像したらイケメンだったんだろ?…ってか、おそらく俺ら冗談抜きで現在がピークだと思うんだが?」

空海最澄も同感である

〈〈〈 具現化に感謝してる 〉〉〉

空海、俺達生きてる頃がんばったよね、平安女子はNGだったけど現代女子にはモテてもいんじゃないの?」

「十分我慢したと思うぜ、ちょっとくらいモッテモテ経験したいよな」

(うぇーい) 3人はハイタッチした

皆で笑っているところに侵入者出現の緊急警報が館内に鳴った。

 

 

 

 

日和ってる奴はだいたい友達 ⑭

日和ってる奴はだいたい友達 ⑭

 

夏向と陵介はその様子を微笑んで見ていた

「紹介するね、こっちから明澄くん、海空くん、優弦くん、目の前にいる人は、わかってるね…感想はどう?」

 

優弦がまたきょとんとしている

「おい、また部活か?ジャージしかないのかよ?ここは」

「優弦、一番気になるとこそこでいいのか?」

「僕達と変わらない、お坊さんじゃないんですね」

「「しかも、おっさんじゃねぇ」」

 

空海がしれっと答えた

「決めつけんな、あぁでも、昨日までおっさんだったぞ?お前らが高1だから高校2年ってのにしたんだよ俺らは1っこ先輩らしいぞ?」

〈〈〈 ???   〉〉〉

 

陵介がやれやれという顔で腕組みをしている

「あっちから帰ってお前らの動画見せたんだよ、そしたら自分達も高校生やるって聞かないしさ、全く同じにするって言い出して紛らわしいだろそれ?全力で止めてよぉ、おとしどころがこの姿だよ」

 

考え顔で晴明が優弦を見つめている

「アクアマリンの髪と瞳か…なぁやっぱ俺、瑠璃色って地味じゃないか?」

かすかにその言葉が聞こえ凄い勢いで走ってきた男が晴明の肩をつかんだ

「地味じゃないぞ!敵が間違いなく標的にするくらい目立ってるから大丈夫だ!かっこいい!もう何もするな」

「なんだよ天星、頭かってぇーな!お前が色のトーン落とせって言うからだろ」

空海も天星うるさいなという表情だ海空を指差して

「俺なんかこいつは金髪だろトーン落とすと、なんかミルクティーみたいになっちまって、そのオパールみたいな眼はそのままマネしていいかな思ったらムズくってよ、もう天星難しくすんなよ!」

「えええ?俺のせいかよ」

 

ワアワアやってるのを見て最澄がタメ息をついた

少年達に誤りながらジャージにエプロンをして工具を手に持った男を見る

「ごめんね、うるさくて、、なんか影薄いけど悠一郎、自己紹介するんでしょ?」

そう言われてハッとした悠一郎が少年達に近付きニパッと笑った

「夏向の父で裏防衛省の局長をしてます、美月 悠一郎(みづき ゆういちろう)です」

(いけねっ)と天星も続けて挨拶にくる

「どうも、ようこそ0世界へ夏向の兄の美月 天星(みづき てんせい)です」

順番に握手していった

「へぇ、夏向さんとタイプ違うな」

顔つきは美形で共通点はあるが、悠一郎と天星は黒髪に金のメッシュが入っているような髪色で、それだけでずいぶん違う雰囲気にみえる

握手しながら悠一郎が答える

「そうだね、うちは夏向と姉の詩音は母親似だから、あ…きたきた」

夏向と同じ月の光を帯びたような髪を鎖骨のあたりに揺らしながら女性が走ってくる

「お待たせしました、夏向の姉の美月 詩音(みづき しおん)です」

陵介が左頭を抱えながらため息をついた

「知ってる…なんで俺に向かって言うんだよ!勘弁しろよ、あっちだろ!」

「あ、ごめん、陵介が好きすぎた、つい」

そう言って少年達に向き直った

〈 ほんと職場でやめて 〉

その場にいる皆は日常のようで夏向が謝る

「ごめんね、うちの姉が…陵介にずっと片思いしてるもんだから」

苦笑いしながら頷き、少々あきれながら握手を交わした

 

海空がちょっと驚いた表情だ

「ってか、クオリティたっか!美月家えぐいんだが?、光量ぱねぇな、顔面の威力すげっ」

「なー、ジャージでここまで輝けんだな、着るもん関係ねえ、まやかしじゃねぇわ」

「顔面が宇宙で戦えるレベルですね」

夏向が両手をブンブンふった

「う、うちなんて、まぁまぁだから、っていうか君達のほうが凄くかっこいいのに、よしてよ」

 

 

 

 

 

日和ってる奴はだいたい友達 ⑬

日和ってる奴はだいたい友達 ⑬

 

朝ごはんのあと腹ごなしに散歩をしてから5人は裏防衛省に向かった、もともとは美月家が所有する屋敷を改造した裏防衛省の外観は美月家の旧館側に似たレトロな洋館だった入口を入ると建物中央までの広い通路がある、中に入ると現代風の内装で1階はやや長方形のフロアをキャビネットや観葉植物でいくつか部屋として仕切られている、中央のフリースペースは大、中さまざまな大きさのモニターがあり飲み物やソファもランダムに置かれている

 

5人はフリースペースのところで立ち止まった、Tシャツやジャージで腕章をつけている人達がザワザワと働いている

優弦はきょとんとして聞いた

「なんで皆ジャージなんだ?部活かよ」

夏向が苦笑した

「うち、あんまり国からお金でないから…でもいま侵略者問題で味方を区別する必要とかあって着てもらってるんだ」

隣で陵介もタメ息をついた

「かっこいいブルゾンくらい作れればいいけどさ、高校の同級生のつてでジャージ類だけは格安で売ってくれたんだよ」

誰かと携帯で話していた夏向が陵介に行くよと声をかける

「おお、ちょっとここで待っててくれ俺達も着替えてくる」

「かくりよ組、上にいるみたいだから連れてくるね」

2人を見送って職場を見回した、皆がジャージのせいか学祭前を思い出す。

 

防衛省は表防衛省と違い規模がとても小さく、おかしな現象全般を引き受ける、ほとんどが1度死んだ人を相手にするなど綺麗な仕事はあまりない、そのため人気がなく入ってくる人は少ない常に人手不足だ、ざっくりと担当はあるが皆何でもする、五芒星(晴明デザインでそうなった)の腕章を付けているものは有事の際に最前線に出る印だ、その腕章もほとんどの職員が付けている、動きやすい軽装をしているのはそのためでもある、1年くらい前までは腕章はなかった他世界から侵略がなければ防衛省といっても戦うことはなかった防衛部隊もない、表防衛省は0世界の人間が相手というので活動する組織である、他世界からだったために裏防衛省が受け持つことになってしまったのだ。

 

明澄が吹き抜けをなんとなく見上げながら呟いた

「なんか…今更、実感わくよ…0世界に来たんだね」

海空と優弦も上を見て頷く

「ああ…魔法がないよな」

「何も浮かんでねーのな?」

少年達は0と5の違いを探すようにあたりを観察した、ここにくる道すがら教科書で見た車や自転車、飛んでる人がいないこと部屋の中は比較的同じに思えるが携帯電話やPCが違うこと、その少しの違いが不思議な気持ちにさせた、別の時空で生きている人達がいる、些細な生活感から不思議な繋がりを感じる、それが何か解らないが心地よいのだ

ガヤガヤと遠くから声がしているのに気づき声の方に目線を送る、2階からフリースペースへ降りてくる階段に夏向達の集団を見つけた、あそこだよと案内しながら降りてきて会話をしながら少年達の前に近付いて来た

その時、少年達は同じことを思っていた

〈 はは、気持ちわりぃ…ってか、こいつが俺だってわかる 〉

かくりよ組の3人も同じだ、何故なら近付きながら自分の前に場所を入れ代わったからだ

 

 

 

 

 

日和ってる奴はだいたい友達 ⑫

日和ってる奴はだいたい友達 ⑫

 

朝、リビングにいくと夏向と陵介はもうコーヒーを飲んでいた

「「「おはよー」」」

「おはよう、こっちの世界来てから体おかしいとかない?」

「んあー」

まだ寝起きでダルそうに返事をして海空と優弦は野田がいるキッチンカウンターのほうへ向かった

明澄がしょうがないなと苦笑いする

「起きてすぐ腹が減ったって言ってたくらいだから元気だと思います」

「そう、良かった何かあれば母にすぐみてもらうからね、医者なんだ」

海空が人数分のサラダをのせたトレーをテーブルに運びながら

「そっちこそ大丈夫か?昨日遅かったんじゃないのかよ」

陵介がサラダを受けとる

「あー今日は遅くてもいいって言われたんだけどさ、好奇心に勝てなかったんだよ、な?夏向」

「うつしよ組とかくりよ組の対面は見逃せないでしょ?」

「そっか、今日会えるんだな」

そう言いながらウインナーに目を止めてキッチンに戻る

「やっぱ米も食いたい、野田さんパンとコメ両方食いたいんだけど、いい?」

野田が料理しながら(いいよーおにぎりにしよっか)と答えている

優弦も加わり具は何がいいと話が盛り上がってる

 

明澄はため息をついた

「ほんとすぐ違うとこに脳ミソ飛ぶんだから…すみません、話進まないですよね」

夏向は吹き出し

「あははっ、明澄くん、かくりよの人達もちょっと自由なとこあるから君たぶん一番常識人だね」

陵介は運ばれてくる料理を並べながら頷く

「うん、昨日の夜もかくりよ組話聞けって怒られてたな夏向のお兄さんにさ」

〈 あれ?ネットで調べたら偉いお坊さんだったと思うけど怒られるの?まぁいっか会うんだし 〉

 

優弦がホイップクリームを混ぜながら近付いてきた

「パンはクリームとフルーツ挟んで食べようぜ」

夏向がキッチンカウンターに出来上がった料理に気づいて取りに行く、パンのカゴとおにぎりの皿を持ち上げた

「美味しそうだな、野田さん今日のパンはどこの?」

「近くに行く用事があったんで ここん で買ってきました」

「あーいいね、そういえば京都はパン好きが多いって言われててパン屋さん多いんだよ5世界もそうなの?」

優弦がフルーツの盛り合わせを海空から受けとりながら

「意識したことないなー、俺はパンとかスイーツ自分で作ること多いからな、俺らに言わせれば5世界の料理は壊滅的だ」

「昨日の夜食でも思ったんだけど食全般間違いなくこっちの世界のほうが旨いぜ、言い苦しいが5世界は家メシも外メシもあんまりなんだよな、別に母さんのメシが不味いわけじゃねぇよ?でも5世界のメシはどこか魔法臭いって感じるっていうか」

 

解る!という顔で優弦と明澄が声を合わせた

「「それな!」」

明澄は凄く残念そうな表情で

「辛いのは魔法臭いってことが家族にもわかってもらえないってことだよね、そのせいか僕達料理上手くなってるし、一番覚醒したの優弦だけど」

優弦はドヤ顔だ

陵介はきょとんとして話を聞いていた

「なぁ、魔法って匂いあんのかよ?」

海空は、うーんと言いながら

「匂いっていうか…食べ物全部に少しずつ粉薬が入ってる感じかなぁ」

夏向が思い出したようにこめかみを押さえた

「あの時、陵介むこうのお菓子食べた時 あれっ?て違和感あったのそれかな入れなくていいもん入ってるって感じがする味だった」

サラダにエビをかけながら陵介も思い出していたようだ

「あー解るわ!何だろうこの余計な味って部分な、あれが全部にっつったら地味につれーなぁ」

「こっちに滞在中は俺も陵介も料理するから美味しいもんたくさん食べてね、まずは朝ごはん食べよう」

「「「「「いただきます」」」」」

 

 

 

日和ってる奴はだいたい友達 ⑪

日和ってる奴はだいたい友達 ⑪

 

温かい風呂に入りリビングダイニングにやや魂が抜けたように少年3人は座っていた、野田が温かいベルガモットティーを入れてくれた、カップを口元に近付けるとハチミツと柑橘系の香りが3人を落ち着かせた、飲みながら部屋の中を見ると現代風の部分と擬洋風建築というのだろうか何か懐かしい気持ちにさせられる部分のある部屋だった

0世界に到着したときに落ちた滝は美月家の庭にある、広い敷地にレトロな洋館が2棟ありリノベーションしながら住んでいる現代とレトロな部分があちこちに混在する館だ

 

野田が用意してくれた豚汁とおにぎりを食べていると、夏向と陵介がリビングダイニングに顔を覗かせた

「俺達は職場に報告に行ってくるから皆は先に休んでてね」

陵介はキッチンの方に足早に向かう

「野田さん、後よろしくー」

はーい、という返事とともに差し入れを陵介に渡している、もらった差し入れの紙袋を提げて少年達の横を通りすぎていく

「んじゃ、お前ら今日はゆっくり休めよ」

2人ははらはらと手を振ってここから徒歩3分の職場に向かっていった

 

旨い食べ物で3人は気が緩み眠くなってきた、それに気がついた野田が声をかける

「今日は疲れたよね、早めに休もう部屋に案内するよ」

渡り廊下を渡りもう1つの建物のレトロな階段を上って2階へ、部屋は8部屋あり、そのうちの使えるようにしてある3部屋の前に立った

「この3部屋は必要そうなもの用意しておいたけど足らないものあったら言って」

3人は立っていたところから近い部屋に向かう

「「「ありがとう野田さん、おやすみー」」」

そう言って部屋に入っていった、が、秒でドアが開いた

「「「うわーあぁあああー」」」

戻ろうとした野田の前にすごい勢いで走ってきた

「野田さん!なんかいっぱいいるっ!でっかいのいるっ!」

「うわーっ、海空、そのでっかいやつが頭にのってんぞ!刺激すんなよ?」

「え?何?どうしたいのこれ?僕達捕食されちゃうの?」

野田はさほど驚いた様子もなく

「あぁ、ずっと使っていなかった部屋だから寝床になってたのかな、危険はないから大丈夫、化保護猫だよ」

「「「化け…」」」

「そうだよ、いろんな理由で成仏できていない化保護猫でね、美月家で成仏するまで預かってるんだ、巨大になったのは君達にびっくりしちゃっただけだと思うよ」

そっか、と海空が頭にのっている猫のほっぺあたりを手を伸ばして撫でた

「びっくりさせて悪かったな、俺達も一緒に寝ていいか?ん?」

はにゃーんとないてシュルシュルと普通サイズになった

ストンと床に降りると3つの部屋の方に向かってにゃーんとまたないた

3つの扉から普通サイズになった猫が何匹か顔を出した他の猫も戻してくれたようだ

「おっ、頼んでくれたのか?ありがとな」

「なんだ、いいやつじゃん、さて寝るか」

「ねぇ?2人とももう平気な顔してるけど化猫だよ?大丈夫なの?」

「同じ布団で寝るやつに悪い奴はいねぇって」

「モフモフならなおのこと大丈夫だな」

「いや、ちょっと何言ってるかわかんない」

3人は野田にもう一度(おやすみ)といって部屋に戻った

 

 

 

 

 

日和ってる奴はだいたい友達 ⑩

日和ってる奴はだいたい友達 ⑩

 

ー 中央広場 ー

必要最低限といっても多種類になってしまった石をそれぞれリュックに少しづつ手分けして背負い出発を待った、家族と挨拶を交わし離れたところに移動してもらった、影響がわからないため魔法は切ってもらっている

 

陵介がリープブレスを渡していく

「もう位置はセットしてある、俺がスタートをタップすると10秒後にリープ始まるからな」

それぞれ腕にはめながら、さすがに少し緊張感が漂っているブレスをしたほうの腕に無意識に力が入る、全員、両親がいる方を向き手を振った離れているので微かにしか聞こえないが

「動画いっぱい撮ってきてくれ」

「お土産たくさん頼むぞ」

的なことがうっすら聞き取れたので、皆、適当に頷いた

 

お互いが見えるように円になったところで陵介が

「いいか?スタート押すぞ」

ちょっと自信なさげな返事が帰ってくる

「「「「 …お、おぉ… 」」」」

右手に違和感を感じた海空がびくっとする

「ばっ…おい優弦お前、指絡めてくんなよ! あ?夏向さんまで、もうっ!」

海空の左手を握った夏向は手を離さず謝った

「女の子じゃなくてごめん、でも本気で怖いんだよこれ、ほとんど運なんだもん」

優弦も涙目で訴える

「マジこえぇんだって、さっき陵介さんにどんな仕組みでリープできるんだ?って聞いたらさ「さっぱりわかんねぇ、なんとなくだ」って言ったんだ」

「えぐっ、怖くね?絶対なんとなくじゃダメなやつだろ!ってか今言うなよぉぉ」

もうスタートは押されている光がまとわりついてふんわりと圧縮されているような感じだ

〈〈〈〈〈 こえーっ 〉〉〉〉〉

光の圧縮が大きく強くなる苦しくはないが体の感覚がなくなってくる、ところてんの容器から細長くどこかに押し出されているような感触だけなんとなく感じる、不安な気持ちから早く終われと全員が心の中で思った

 

ー ばしゃん ー

5人は状況が飲み込めずそのまま呆然とした

そこに庭の手入れをしているエプロンを着けた青年が声をかけた

「お帰りなさい、夏向さん、陵介さん…と、ゲストの皆さんいらっしゃい」

「野田さん…」

美月家の手伝いをしている野田をまだぼんやりとしている夏向が浅い滝壺から見上げた

陵介も我にかえり

「野田さん…ってことは戻れた!みんな揃ってるか?」

海空がよろめきながらビショビショで立ち上がった

「冷たいんだが?陵介さん着地点が何で滝なんだよ」

「あはは、悪いなミスった」

優弦と明澄はリープ酔いしたのかまだぼんやりしている

「あれ?おい平気か?夏向、この2人顔色悪いな」

「え?大変だ野田さんごめんタオルお願いっ みんなお風呂へ」

持ってきてもらったタオルにくるまりながら風呂に向かった